問 題 1 0 次 の 文 章 を 読 ん で 、後 の 問 い に 対 す る 答 え と し て 最 も よ い も の を 、A、B、C、Dか ら 一 つ 選 び な さ い 。
心は目に見えない。だから客観的に知ることはできない。ならば、心とか意識な んて面倒なことを考えるよりも、目で見える、定規で測れるものだけを考えることに しよう。そう考える人がいても不思議ではない。
行動主義心理学と呼ばれるこの流派では、サルやネズミなどにレバー押しなどの 行動を訓練し、その行動から動物の心を探っていく。 しかし動物に「まずはレバーを 押してみてください」と頼むわけにはいかない。例えば、初めて実験室につれてこら れたサルは、そもそもレバーにさえ気づかないからだ。
では、サルにどうやってレバーを押されるのか?ポイントは二つ。ひたすら待つ。 そして少しずつ目標に近づける。
例えば、サルが少しでもチラッとレパーを見たとする。そこですかさずエサを与 える。 これを何度か繰り返すと、サルの注意が次第にレバーに向いてくる。 ここで いったんエサやりを止める。するとサルは、うろつきまわったりキョロキョロした り、色々なことを試し始める。ここが我慢のしどころ。試行錯誤の中、サルの手がレ バーに伸びるのをじっと待つ。そして手が少しでも伸びれば、すかさずエサを与え る。
こうして、適切なタイミングでエサをやりながら、少しずつ目標の行動に近づけて いくのである。
私はこのやり方を、大学院生の頃、助手の先生に教わった。それは教科書に書いて あるとおりのことだった。が、実際にやってみると、それは衝撃の体験だった。
エサやりのボタンを右手に持ち、白黒のモニターごしに、サルの行動をじっと見つ める。私はサルに念じていた。「振り向け、レバーに振り向け」。伝わらない思いを 伝えたい。ふいにサルがレバーに近づく。 と、すかさず「エサやり」というメッセー ジを送る。それは紛れもなくコミュニケーションであった。
この訓練をずっとやっていると、徐々にサルの気持ちがつかめてくる。そして、気 持ちがつかめてくると、訓練は格段に早く進む。行動だけを見よといいながら、その 実、うまく訓練するにはサルの心がつかめていなければならないのだ。心は行動か らしかつかめない。 しかしそれがつかめたとき、手の中にサルの心があるように思 えてくる。そのとき私は、学問の本当に大事なことは、教科書には書いていないこと を知ったのだった。
(金沢創「心体観測」朝日新聞による)
(注 1)行動主義心理学:人間や動物などの行動を観察して研究する学問
(注 2 )レバー:機器を操作するときにつかんで動かす棒
(注 3)紛れもなく:間違いなく
(注 4)その実:実際には
筆者がこの訓練をしてわかったことは何か。